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マチュピチュとクスコへの冒険旅行
第2話 首都クスコの洗礼を浴びる!

初めて訪ねるインカ帝国の首都、クスコの街ではあるものの、今やスマホのGOOGLEマップがあることから、たとえ原チャリを自分で走行させたとしても、空港までの行き来に迷うとは考えられず、冒険旅行の始まり程度に考えていました。そして日暮れまで1時間少々あったことから、片道4−5qならば、明るいうちにホテルまで戻ってこれるだろうと思ったのです。また、実際に地図を見ながら原チャリで移動することにより、クスコの街並みを自分の目でしっかりと見聞することができ、忘れ物を取りにいくついでの観光旅行としては、うってつけのプランだったのです。

クスコの洗礼を担う原チャリ
クスコの洗礼を担う原チャリ
街中でバイクのレンタルをしているのは、小さな旅行代理店のような店でした。その室内には原チャリとオートバイが1台ずつ片隅においてあり、店のおばさんが笑顔で応対してくれました。しかし、よくよく見ると、原チャリはかなり年季の入った旧式のモデルであり、鍵の部分もかなりへたっていて若干の不安が募ります。そして手渡されたヘルメットは、これまで一度もかぶったことのない、しっかりしたオートバイ用のものだったのです。生まれて初めて頭をすっぽりとおおうオートバイ用のヘルメットを装着したのですが、閉所恐怖症気味の筆者にとって、目先しか見えないような頑丈なヘルメットは苦手です。とやかく考えていると日が暮れてしまうため、早速エンジンがかかることを確認。ところがガソリンタンクを開けてみると、どうみてもほとんど空っぽです。絶対にまずいと思ってガソリンは?と聞くと、「1時間走る程度なら間に合う」というのです。どう見てもそうは思えません!とにかく1時間前後で戻って来る約束をして、出発しました。

石畳の道に囲まれたクスコの街
石畳の道に囲まれたクスコの街
クスコの交通事情については、空港からの渋滞を見て、ある程度は理解できていました。とにかく運転が相当荒いことに違いありません。幹線道路はいたるところで渋滞しているだけでなく、道には結構デコボコがあり、車線はあってないようなものです。そしてクラクションを鳴らしながら、ぶつかるぎりぎりまで左右に寄せて割り込み運転をするのがクスコ流です。しかも人が歩いていても車両優先と言わんばかり車はスピードを落としませんし、さらに街中に入ると石畳上の狭い一方通行の曲がりくねった道ばかりで、方向感覚には自信がある筆者も慎重にならざるを得ません。そんな危なっかしい道路事情だからでしょうか、バイクや原チャリの姿はほとんど見かけませんでした。

その石畳の道を、初めてクスコを訪ねる日本人が原チャリで走ることになったのです。そして出発した直後、スマホで地図をいったんは確かめようと、原チャリを道路脇に停めて降りることにしました。ところがヘルメットを脱ごうとしても、首ひものスナッパーが錆びていたせいか、はずれないのです。まさか、と焦っていろいろと動かしてみるのですが、どうしても頭からとれません。頭をまるごとかぶせるヘルメットはそもそも嫌だったのですが、それを被ったまま取れなくなるという事態に、閉所恐怖が一気に押しよせ、気が狂ったように何とかヘルメットを脱ごうと、首ひもを付けたまま無理やり引っ張りました。すると今度は、その首ひもが鼻の孔をふさぐように強く押し付けた形になり、息が苦しくなります。そうでなくても酸素が薄い高地なのに我慢の限界です。鼻がブチ切れても、とにかくこのヘルメットを取らないと気がおかしくなりそうで、痛いのを我慢しながらやっとのことで頭から外すことができました。

大勢の人で賑わうクスコ大聖堂
大勢の人で賑わうクスコ大聖堂
ヘルメットのバンドを慎重にチェックし、付け方、外し方を再確認して、今度はすんなり外すことができることを何度もチェックした後、再出発です。ところが一難去ってまた一難。何と、エンジンがかからないのです。うんともすんともいわないことから、バッテリーがあがってしまったのかと思うも、すでに店からは1q以上は運転してきているだけでなく、停車していた場所が一方通行の登り坂だったのです!こればかりは仕方がないと、原チャリを押しながら、坂道を歩いて上ることにしました。坂道の原チャリは想像以上に重たく、息が途切れます。それもそのはず、標高3400mのクスコの街は、空気がとても薄く、酸欠になりがちなのです。それは、原チャリを押し始めてすぐにわかりました。頭が、ボッーとしてくるだけでなく、体に力が入らず、息が苦しいのです。それでも原チャリを押さなければと、ぼやきながら、何とか坂の上まで辿り着くことができました。

押してバッテリーの機嫌が良くなったのでしょうか。下り坂を少し押した後にエンジンをかけると、見事かかったのです。もう、エンジンを切るまいと決め、まず、ガソリンスタンドで給油をすることにしました。スタンドはフルサービスのようですが、いかんせん言葉がわかりません。そこで、働いているおじさんにお金だけ渡してガソリンを入れてもらい、やっと一安心です。時間もなくなってきたことから、急いで街道をまっすぐ空港方面に向かいました。それにしても道はでこぼこで、後方からくる車がクラクションをならし続けるのには苛立ちを隠せません。人を何とおもっているのかと、嫌な気持ちになっていた矢先、今度は雨が降ってくるではないですか。クスコは雨期というのはわかっていましたが、空港到着時は天気が良かったことから何ら心配はしていませんでした。ところが小雨と同時に気温も急速に下がってきたのです。夏のクスコということでマチュピチュが20度以上を記録していたことから、クスコが寒くなるとは想定せず、原チャリには薄着で乗っていました。日中は暖かくとも、日が沈む頃には肌寒くなり、気温も10度を切ってくるのがクスコの1月です。その寒さで原チャリは、さすがに身にこたえます。クスコでの洗礼は、小雨と悪寒に包まれました。

山の景色が美しいクスコの空港
山の景色が美しいクスコの空港
飛行機の中に眼鏡を忘れてしまったために、それを取りに行くためだけに原チャリに乗り、「寒い!」「雨が冷たい!」と震えながらも、何とか空港に辿りついた時は、さすがにほっと一息。あとはAvianca航空のカウンターに行き、忘れ物の眼鏡がなかったかを聞くだけです。ところが、ここでも冷たい洗礼を受けることになりました。カウンターの前には旅客がただ一人質問をしているのですが、対応している女性スタッフはこちらに見向きもせず、ひたすら画面を見ているだけなのです。何分たっても見向きもしないから、そっと後ろから「Excuse me…」と声をかけるも、目もくれずに「WAIT!」と冷たい一言。ちょうど、飼い主が犬に言うように、怖い顔をして、「まて!」というのです。もう20分以上待っているのに、これでは本当に日が暮れてしまいます。他の女子職員も目もくれずに素通りです。これはどうしたことでしょう。ただ眼鏡をとりにきただけなのに、この国はいったいどうなっているのかと、腹立たしく思えてくる気持ちを抑えきれません。そして遂に男性スタッフをつかまえ、「忘れ物をとりにきた。。。」と声をかけると、彼だけは振り向いてうなづき、すぐに事務所に入って「これでしょ!」と、持ってきてくれました。ゆっくり待つのがペルーの国民性なのでしょうか。表は夕暮れとなりすでに6時を回っていたので、急いで帰途に就くことにしました。

もう待ったなしです。6時までに帰る予定が、その時刻を過ぎてもまだ空港にいたのです。帰りは行きの道をそのまま戻ればと思い、突っ走ることにしました。ところがその先に最後の艱難が待っているとは、考えもしませんでした。行きと同じ道を戻ればよい、というのがそもそも誤算だったのです。方向感覚には絶対の自信をもっている筆者ですが、高山病の影響もあったのでしょうか、判断力が鈍っていたに違いありません。すでに地図上で登録してある店の場所に向かって進むのが基本なのですが、途中、渋滞にぶつかり、左折がしづらい(ペルーは右側通行)道があったことから、幹線道路から一本はずれた別の道に入ったのです。するとその道は、途中から坂道や曲がりくねった道となり、いつの間にか迷いこんでしまい、どこにいるかわからなくなったのです。そして何度も途中で原チャリを道路わきに停めてスマホを見るも、どうしても店のある広場の横に辿りつかないのです。時刻は既に7時を回っていました。

そして迷いながら行ったり来たりしていると、坂道を上る急斜面で何とまた、原チャリが止まってしまいました。うんともすんとも言いません。また、バッテリーがあがったせいなのか、接触が悪いのでしょうか。仕方なく、上り坂を思い切り押して歩くことにしたのですが、原チャリは自分の限界を感じるほど重たく、空気の薄さから息が苦しく、頭がくらくらとして、呼吸困難に陥りそうになりました。このまま吐き気をもよおすと体が止まり、倒れるかも、と悪夢が脳裏をかすめます。大渋滞の坂道を小雨の中、一人の日本人がとぼとぼと、原チャリを押している姿は、なかなかクスコでは見られないでしょう。きっとペルーの方々も不思議な思いで車から見ていたのではないでしょうか。そしてしばらく押し続けていると、突然、ランプがついてエンジンがかかりました。「頼む、もう、止まらないでくれ!」と祈りつつ、再び走り始めたのです。

もう道には迷わない、と再度、スマホの地図を眺めながら行先を確認するも、もはや自信はありません。というのも、地図上ではだいたいあっているはずなのに、何故かしら出発した時点で見た光景とは街並みが全然違うだけでなく、目的地の真横にある大きな広場らしき場所がないのです。しかも行ったりきたりしているうちに道に迷い、グラフィティーの落書きだらけの建物が並ぶ雰囲気の悪いエリアに入ってしまいました。そこでは路上で若い人達がたむろしていて、もしそこで原チャリが止まったら万事休すです。その抜け道がない住宅街をぐるぐる回ること10分。。。このままでは撃たれる!と恐怖におののき、冷や汗をかきながらやっとの思いで表通りを見つけ、怖そうなエリアから脱出することができました。

そしてメインストリートに戻るも、もはやどちらに行ってよいかわからず、クスコの大渋滞の街道を再び行ったり来たりです。当日は花火大会があったのか、近くで花火が打ち上げられています。その関係で途中から車が全くうごかない大渋滞、バイクも動けなくなりました。小雨が降る中、気温はどんどん下がり、手がかじかんできました。一体自分はクスコで何をしているのか?こんな路上で野垂れ死にはできんぞ!と寒さを我慢しながら、渋滞の中をひとり、原チャリに座って構えていたのです。

そこでふと、閃きました。そもそもスマホの地図が間違っているのでは?電波障害の可能性も考えられることから、いったん電源を切ってリセットしました。それでもう一度最初からじっくりと地図を見直してみると、何と、それまで目的地として指定してきた店の場所は、本来の場所とは異なり、単に地図上では同じような場所に見える所だったのです。それまで何十回となくスマホ地図を見るために止まりながら、原チャリを運転してきましたが、ただ唖然とするばかりです。既に夜の8時を回り、あたりは真っ暗です。遅くとも7時までに原チャリを返却しなければならなかったのですが、もう約束の時刻から1時間も過ぎています。それでもまだ、店の場所が特定できず、地図を見ていたのです。

日暮れに映えるクスコ塔パチャクテク
日暮れに映えるクスコ塔パチャクテク
そこから再出発するも、何故かしら同じ道をぐるぐると回りながら、町のシンボルでもある塔にまた戻ること、3回。これこそ、まさにクスコの洗礼ではないかと、心が折れそうになります。目的地は大きなお城のそばにある店なので、そのお城が見えてくれば、すぐにわかります。そして巡り回ってやっとのことで、そのお城が目に入ってきました。ほっとしたのも束の間、よくよく見ると、城の形と道路付けがちょっと違うように見えるのです。バイクを停めて通りを歩いてみても、雰囲気が違うだけでなく、あるはずの場所に、店がないのです。

最後の手段として、宿泊先のホテルは有名と思われたので、まず、そこに戻ることにしました。ところが、一方通行だらけで、夜道も暗く、そのホテルさえも見みつからないのです。また、町中はいたるところに警察官が見張っていて、交通違反を取り締まっています。あまりに行ったり来たりしながら、一方通行を逆行しそうになり、途中、警官に2度も止められてしまいました。そして最後に女性警察官に、「メリアットホテルの場所は」と聞くと、すぐそこですよと言われ、今度こそはと思って再び原チャリを走らせると、また迷ってしまう始末です。時刻はついに9時を回ってしまいました。

明るい街並みがきれいな夜のクスコ
明るい街並みがきれいな夜のクスコ
寒い小雨の降るクスコの街をかれこれ3時間も原チャリで走ったあげく、店の方を待たせてしまって申し訳ないと思うと同時に、もう店は閉まっているのではないかと不安がよぎります。週末日曜の夜ということもあり、城がある広場に近づくと、夜でも人通りが多く、街中にはちょっとした活気があります。そしていたる所、歩行者天国になっていて、原チャリが入れないのです。エンジンをとめても、原チャリは侵入禁止ということで、歩きながら押しても警備員から止められる始末です。そのため、幾度となく行ったり来たりの繰り返しが続き、ぐるぐると迷い続けたのです。そしてやっとのこと、本来の目的地であるお城のような教会が目に入ってきました。そのお城の逆側の道に店があるのですが、広場に向かう道は通行止めです。ここで力尽き、道を探すのはやめてバイクを路上に停め、徒歩で店まで行くことにしました。時刻は9時20分。約束の時間よりも2時間以上、遅れています。そして店まで走っていったのですが、笑顔いっぱいのレンタル店オーナー
笑顔いっぱいのレンタル店オーナー
間違いなくこの通りにあるはずの店がないのです。「あれ、ない!」と、うろうろしていると、後方から店の子供が走り寄ってきて、店の前を通り過ぎてしまったことを教えてくれました。「やっと着いた!!」店では、おばさんが相変わらずの笑顔で待っていてくれました。そして一言、「道に迷ったと思っていたよ。。」と話すのです。クスコではみんな迷うらしいのです。「だったら最初から言ってくれよ!!」 そして息子さんだろうか、バイクの場所を教えると、一人で取りに行ってくれました。

3時間を超えるクスコの原チャリの旅は、想像を絶するものでした。標高3400mという高地であることから気温は低く、空気の薄さから高山病になっても不思議ではない中、頭はボッーとし、途中のどはかわくし、トイレに行くのをずっと我慢しっぱなしです。そして原チャリの運転では渋滞に巻き込まれ、エンストを起こし、息をきらしながら原チャリを坂道で押し、そして道に迷い続け、雨にうたれ、怖いエリアにも迷いこんでしまったのがクスコの初日でした。これも所詮、眼鏡を飛行機に忘れてきたことからはじまった自分の失態が原因ですが、その忘れた眼鏡をゲットすることができたこと、無事にホテルまで戻れたことに感謝が溢れてきます。そして何より、クスコの道路事情から町並みの在り方を、どんな旅行者よりも詳しく、たった3時間で見聞できたことは、大きな収穫でした。クスコの洗礼はとてもきつく、大変でしたが、それを通して自分とクスコの距離が縮まり、クスコの理解を深めたことにひときわ満足を覚えていた自分がいました。