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2021/12/07

「麦屋節」で歌われる囃子詞の意味 働く人々が元気いっぱいに唄う祭囃子

「能登麦屋節」の背景

石川県を中心に北陸地方で唄われている民謡の中に、「能登麦屋節」があります。この民謡は、富山県の三大民謡のひとつである「麦屋節」の原曲となった名曲であり、富山県や石川県の無形文化財にも指定されるほど、素朴で落ち着いた響きを持つ民謡として有名です。また、その歌詞のルーツには、平家落人の思いが込められていると伝えられています。

歌詞の背景は「麦屋節」という唄の名前が示すように、能登半島で作られるそうめんに関係しているとも言われています。そうめんは小麦を原料として作られていることから、そうめん屋は以前「麦屋」と呼ばれていました。そうめん作りは小麦を石臼で挽く作業にはじまり、夜通し入念に伸ばした麺を朝方に干すという、想像以上に大変な仕事です。そのため、麺職人たちは徹夜を覚悟で作業をするのが常でした。そうしたつらい仕事の中で、お互いを励まし合い、活気づけるために唄われたのが、この「能登麦屋節」です。

「麦屋節」の歌詞と囃子詞

夜通し働く職人たちの元気と明るい声こそが「麦屋節」の真骨頂であり、その力が歌詞の随所にみなぎっています。

能登の七浦(しつら)でエエナ 竹切るイナー(チョイト)
音はイナー三里聞こえてイナー(チョイト)
五里サーイナー響くイヤー(アラチョイト五里響くヤイナー)
三里聞こえてイナー(チョイト)五里サーイナー響くヤー

麦や小麦は 二年ではらむ 米やお六は 年 ばらみ
(アラチョイト年ばらみヤーイナ)米はお六は 年ばらみ

輪島麦屋は 七軒(ななやけ) 八軒(ややけ)
中の麦屋で 市が立つ

石川県無形民俗文化財 能登麦屋節(輪島市門前町地区)

「麦屋節」の歌の中では、「ヤイナー」、「ヤーイナ」、「イナ」の囃子詞が連続して歌われます。その前後に唄われる歌詞の種類は豊富であり、さまざまな歌詞が記録に残され、伝承されてきました(『ふるさと石川の民謡』 「ふるさと石川の民謡」編纂委員会編 石川県民謡協会 1992.3 p223~225)。上記、能登麦屋節(輪島市門前町地区)では「五里ひびくヤーイナ」、「年ばらみヤーイナ」と唄われています。また、「ふるさとのいぶき 北陸の民謡」によると、「麦や小麦はイナ」、「水はヤイナ」、「日本民謡大全集 下巻」では「刈るがヤーイナ」、「米はお六でイナー」という囃子詞が記載されています(『ふるさとのいぶき 北陸の民謡 改訂・増補版』 小坂登志喜企画・編集 加賀民謡会 1997. 『日本民謡大全集 下巻』 千藤幸蔵編 長田暁二編 ドレミ楽譜出版社 1990.6 p84~85)。

「麦屋節にみられる「ヤイナー」、または「アイナー」と唄われる「イナー」の返し唄、そして「ジャントコイ」の掛け声は、能登民謡の特徴でもあり、独特の響きを持っています。

一見、日本語では意味が不透明なこれらの囃子詞も、単なる大きな掛け声のための文字の連なりではなく、それらひとつひとつに意味が込められていたことがわかってきました。

「ヤーイナ」の意味をヘブライ語で解明

「能登麦屋節」で唄われる囃子詞は、ヘブライ語で意味を理解することができます。まず、「ヤーイナ」、「ヤイナー」に含まれる「イナ」に注目してみました。「イナ」はヘブライ語でאינה(inah、イナ) と書き、「~が授けてくださる」、「成される」、を意味します。その「イナ」に、「神」を意味する「ヤ」、または「ヤー」を接頭語として加え「ヤーイナ」とすれば、「神が授けてくださる」、「神が成してくださる」という意味の言葉になります。

「能登麦屋節」を通じて、神が大自然を育み、「麦や小麦」などの穀物が豊かに収穫できる年となることが願われたようです。そして人々が元気に働き、収穫の糧を十分に得られることを願い、「イナ」という囃子詞を通じて、「それを成し遂げください」と唄ったのです。さらに「神が授けてくださる!」、「神が成してください!」、という思いを込めて「ヤーイナ」と唄うことにより、どんなつらい時でも助けてくださり、豊かな大自然の恵みを与えてくださる神の存在に、人々の心が潤されたのではないでしょうか。

「チョイト!」は「前進しよう!」の意味

「麦屋節」の唄では、その祈りと信仰の思いに励まされた勢いにのり、歌詞の節々において「チョイト!」という掛け声が掛けられます。現代語では「チョイト」は「ちょっと」、または「少し」、という意味に思われがちです。しかし人々が元気に声を合わせて唄う歌詞の間合いに「ちょっと」という囃子詞では意味が通じません。「チョイト」の囃子詞も「イナ」「ヤーイナ」と同様に、ヘブライ語で理解することができます。

「チョイト」の語源はおそらく、ヘブライ語のצועד(tso‛ed、ツォエド、チョイド) です。この言葉は「行進」、「前進」、「前に進む」ことを意味します。すると、「麦屋節」ではこれまで歌詞の合間に「前進せよ!」と掛け声をかけていたことになります。そしてヘブライ語で「前に進め!」、「ツォエド!」「チョイド!」と唄っているうちに、その発音が多少訛って「チョイト」になったと考えられます。

囃子詞のパンドラが開けられる!

「麦屋節」で唄われている囃子詞の意味から、夜通し麦をこねる大変な作業で、「ヤーイナ」「チョイト!」と、互いに声を掛け合いながら働き続けた人々の姿が目に浮かぶようです。その「チョイト」の掛け声に多くの人は元気づけられ、みんなで「前進しよう!」と励まし合っていたのでしょう。やがて囃子詞は唄のメロディーと共に人々の心に残り続け、代々にわたり伝承されてきたのです。

「麦屋節」で唄う「ヤーイナ」という囃子詞は、「神が成される!」という信仰の思いに通じていました。そして「進もう!」を意味する「チョイト」を続けて唄うことにより、この一句に「神と共に前進しよう!」という祈りの思いが込められていたのです。そこには「神が成就してくださるので、信じて頑張ろう!」と、囃子詞を通じて声を掛け合いながら、互いに励まし合う人々の姿がありました。

元気いっぱい前進する「ジャントコーイ」

「能登麦屋節」を原型として、後に、その後継とも言える「麦屋節」が広まり、その名声は原曲を超えるまでになります。一般的に「麦屋節」のテーマは、さっさと刈り取られてしまう短命の麦を、自分たちの哀れな姿に例えて唄ったものと解釈されてきました。それが平家落人の悲哀の唄とも言われてきた所以です。しかしながら、ヘブライ語による解釈では、その意味は全く異なります。

「麦屋節」の中には「神が成してくださる」、「神が与えてくださる」を意味する「ヤーイナ」、そして「前進しよう!」という「チョイト」に加えて、「ジャントコーイ」という囃子詞も含まれています。この「ジャントコーイ」もヘブライ語で理解することができます。

まず、「ジャントコーイ」の前半、「ジャント」の語源はצעד(tsaad、チャアド) です。この言葉は前述した「チョイト」「ツォエド」の過去形であることから、「チャアド」とは「行進した」「前進した」を意味します。この「チャアド」が訛って「ジャント」になったと推測されます。

次に、「コーイ」を検証してみましょう。ヘブライ語には「活き活きと」を意味するחי(khay、カーイ) という言葉があります。「カーイ」とは「コーイ」の発音に限りなく近いことから、そのルート語である可能性が考えられます。

これら「チャアド」と「カーイ」が組み合わさると「チャアド・カーイ」という詞になり、いつの間にか訛って「チャアド」が「ジャント」となり、「カーイ」は「コーイ」と唄われ、「ジャントコーイ」という囃子詞に落ち着いたと考えられます。その意味は「活き活きと前進した!」、「元気に進んだ!」となります。

「麦屋節」の囃子詞からも元気をもらう!

「麦屋節」で唄われる囃子詞の意味は、長い歴史の中に埋もれてきました。その結果、人々はこれまで何を意味するのか分からないまま、囃子詞を口ずさんできたのです。そして今やパンドラが開けられ、囃子詞本来の意味が見えてきました。

「ヤイナー・チョイト・ジャントコーイ」という「麦屋節」の囃子詞に込められた意味とは、「神が成す故、前進しよう!元気一杯に進もう!」だったのです。神の恵みと助けがあるからこそ、働いていた人々は活き活きと歩み続け、ひたすら前進することができたのです。そのような元気いっぱいの活力が、囃子詞の根底にヘブライ語で込められていました。だからこそ、人々はどんな時でも「麦屋節」を歌うことにより、勇気づけられ、励まされてきたのではないでしょうか。

「麦屋節」は古来の「能登麦屋節」と同様に、元気を奮い起こし歩み続けるための励ましの唄だったのです。そこには、オリジナルの「能登麦屋節」と同様に、神のご加護を得て、人々が元気に働き続けることへの願いが込められていたとわかります。

[索引]

  1. 『ふるさと石川の民謡』(「ふるさと石川の民謡」編纂委員会編 石川県民謡協会 1992.3)p223~225
  2. 『ふるさとのいぶき 北陸の民謡 改訂・増補版』(小坂登志喜企画・編集 加賀民謡会 1997.
  3. 『日本民謡大全集 下巻』(千藤幸蔵編 長田暁二編 ドレミ楽譜出版社 1990.6)p84~85
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