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2024/03/10

国立科学博物館による提唱と課題の数々

日本人形成のシナリオとは

北海道で発掘された縄文時代から続縄文時代に至るまでの人骨の遺伝子分析が、国立科学博物館の研究チームによって実現し、研究成果が発表されました。その結果、日本人のDNAは、大陸北東部のアムール川下流に住む先住民と関連している事実が指摘されたのです。つまり、これまでの通説であった、縄文人のルーツは南方諸島から、という考えは不十分であり、大陸北東部からも渡来していることを考慮する必要性が判明したのです。

この発表により、日本人形成のシナリオの方向性がより明確になってきました。それは、ホモサピエンスに進化した人類の一部が東南アジアに到着し、北上して日本列島に拡散し、縄文人の祖先になる者も存在したことに違いはないが、その民の流れとは別に、アジア大陸の北方から移住してきた民も存在したということです。そして寒冷地に適応した集団が大陸より東進南下して、3000年ほど前までに中国や朝鮮に住みはじめ、最終的には縄文時代の終わりから弥生時代にかけて西日本に渡り、縄文人と融合しながら日本人の祖先になったという仮説に至ったのです。

定説に至るまでの疑問点

「日本人の起源」に関する昨今の仮説が、定説として受け入れられるまでは、まだ時間を要するかもしれません。昨今のDNA研究の成果を見極めながら、歴史の流れを推測する訳ですから、さまざまな仮説が登場して当然であり、多くの議論をこなしながら定説が生まれてくることでしょう。

日本人のDNAに関わるトピックだけに、疑問点は多々、見出されています。例えば、後述する「歴史人口学」の研究によると、縄文時代における人口分布は著しく東日本に偏り、九州、四国にはほとんど人が居住していなかったと推測されています。それらのデータから日本人の起源を察すると、古代、南方から北上した人数は限られていたのではないかという結論に導かれます。そして古代人の多くは暖かく住みやすい土地を探し求めた民が北方から渡来し、東日本の平野部から中部にかけて居住範囲を広げていったと想定することにより、人口分布に関するデータとのつじつまを合わせやすくなります。

しかしながら、南方から北上してきた民が東日本にまで至ったと考えられない訳ではありません。古代人が南方より渡来し、九州、四国を通り過ぎて、本州まで至ったと考えても何ら不思議ではありません。それ故、南方から北上した人数は少なかったと結論づける必要はないはずです。但し、日本周辺の地理を見渡す限り、明らかに朝鮮半島を経由したルートの方が日本列島に渡りやすいことから、後世も含む長い歴史のスパンを考えるならば、北方から渡来した民の方が圧倒的に多くなったと推測されます。

また、シベリアで寒冷地に適応した集団が東進南下したと想定する件ですが、中国や朝鮮などに分布していた人々が、なぜ古代文明の発祥地でもあるアジア大陸を後にして、わざわざ海を渡ってまで日本に来なければならなかったのか、その動機が明確になっていません。リスクを背負って海を渡り、未開の島々に向かうという行動の背景には、特殊な事情があったのでしょうか。温暖な気候を求めるだけならば、大陸を南下し続けることもできたはずです。

言語についても疑問点が残ります。南方から北上してきた人々に加えて、北方のシベリア方面からも人々が南下して原日本人の起源となり、そこに中国大陸から弥生人を形成する民が大勢訪れたとするならば、なぜ日本語は、それらの人々とはおよそ関係のない、西アジアから北アジア大陸にかけて普及した、モンゴル語や朝鮮語と同じアルタイ諸語の仲間に分類される言語になったのでしょうか。しかも、弥生時代から古墳時代にかけて、日本列島の人口は激増し、明らかに大陸より膨大な数の移民が日本列島を訪れているということがわかってきました。人口の推移を分析することは極めて重要であり、古代の民の人流を見極めることにより、DNA研究の成果と照らし合わせて妥協点を見出していく必要があります。

「日本人の起源」の謎を紐解くキーポイント

いずれにせよ、この度の国立科学博物館による研究成果の発表により、少なくとも縄文人とはいくつものルーツを経たさまざまな集団が関わって誕生した人種であることが明確になりました。それに加え、上記の疑問点を踏まえてさらに検証を重ねることにより、古代日本史の原点となる「日本人の起源」の謎を紐解くキーポイントが見えてくるのではないでしょうか。

歴史人口学の見解も踏まえたうえで、縄文時代から弥生時代を超えて古墳時代に至るまでの日本人口の変化に目を留め、日本語という言語にも注視することにより、DNA研究の結果と合わせて古代史の流れが解明され続け、「日本人の起源」が見えてくることでしょう。

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